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梅村甚太郎著「富士山植物誌」付録より
大宮口ニ於ケル植物分布ノ状態 (大正12=1923年)         梅村甚太郎 

(一)山麓帯 抜海百三十米突ナル大宮ヲ基点トシテ千二三百米突ナル八幡ニ至ル
 大宮町ナル浅間神社ノ辺ニ於キテハ■、山茶、まさき、くるみ、くさぎ、とりもち等ノ樹木アリ。ゐのもとさう、くさのわう、はへどくさう、ちやひきぐさ、やぶそてつノ如キ草本アリ。又池中ニハきんぎよも、うめばちもノ類アリ。 ソレヨリ大宮新田ヲ通過シ、賽ノ河原 (150m.) ニ至ル間ニ樹草多シト雖モ、よめな、のあざみ、のげし、やはずさう、めどはぎ、はこべ、みゝなぐさ等ノ草本、くぬぎ、くり、こなら、いぼた、かや、いぬがや、かき、うつぎ等ノ樹木ニシテ別ニ記スベキ程ノモノナシ。 ソレヨリ凡ソ三百米突ナル粟倉ニ至ル間ニモ樹草少カラズト雖、皆前者ト相似タルモノニシテ、きつねのかみそり、おきなぐさ、ほたるぶくろ、もみぢばはぐま等ヲモ見ル。 ソレヨリ五百米突ナル村山ニ向ヘバたまあぢさゐ、いはたばこ、はこねしだ、くじやくしだ等ヲ交ヘ、其村山ナル浅間神社ノ境内ニ入レバ、柯樹、さかき、やぶにくけい、●等ノ常緑濶葉樹トごんずい、かへで、こくさざ、ゑのき、ほゝのき、こまぎ等ノ落葉濶葉樹ノ存スルヲ見。 又地上ニハともゑさう、ふしぐろせんのう、ゑぞすみれ等ノ生ズルヲ見ル。村山ヨリ小屋坂ヲ経テ略七百米突ナル札打ニ向ヘバ途中所見頗多シ雖、今其数者ヲ摘示センニ、しでしやじん、くさふぢ、しほがまぎく、こゞめぐさ、きつりふね、くされだま、うらじろいちご等ノ草本ヲ見、又なつぐみ、しもつけ、くろもじ、たにうつぎ等ヲ見ル。札打ニ達スレバ欅ノ大樹□リテよろひごけ、かぶとごけ、さるをがせ等ノ地衣ノ着生スルモノアリ。地上マタつのごけ、ばらいちご等ヲ見ル。札打ヨリ凡ソ一千米突ナル天照教ニ向ヒテ進メバさんしやうばら、みやままたゝび、たかねいばら、やまをだまき、白花へびいちご等多ク現ハル。 已ニ天照教ニ達スレバ四望広濶ニシテ前面ニハ近ク山頂ヲ仰グ。先ズ一休シテ道スガラ採集セル品類ヲ整理スルノ閑ヲ偸ムノ値アリ。此辺かうりんくわ、おたからかう、みやますゞめのひえ等アリ。 天照教ヨリ細紺野ヲ通過シテ八幡堂 (1250m.) ニ向ヘバあぶらつヾじ、やまうぐいすかぐら現ハレ、やましやくやく、やまのこぎりさう、うすゆきむぐら等出ヅ。 而メ又みづなら多シ。次第ニ八幡堂下ニ近ケバ樹上並ニ地上ニ地衣蘚苔多ク、草本類ニ至リテモ亦里閭 〔村里のこと〕 附近ニテ見得ベカラザルモノヲ多ク交フルニ至ル。即チ禾本科ニテハいはたけさう、いぶきぬかぼ、ほがへりかやノ如キモノモアリ。 菊科ニテハたてやまぎく、みやまかうもりさう、たけしまらん等アリ。 又樹木ニテハみやまがまずみ、やまぼうし、なつつばき、ときはかえで等アリ。 かぶとごけ、からたちごけ及ビ Parmeria ; Sticta ; Alectria 等ノ地衣ニ富ミ蘚類亦多ク、著シク喬木陰草帯ニ接近スルノ徴ヲ示セリ。
 之ヲ要スルニ大宮ヨリ粟倉、村山、札打、天照教、細紺野等ヲ経テ八幡堂下ニ至ルノ間ハ所謂富士ノ裾野ニシテ、所生植物モ概ネ里閭附近ノモノニ類スト雖、天照教ヲ経テ細紺野ニ至リ更ニ八幡堂ニ近ケバ自ラ深山的ノモノヲ交フルニ至ル。

(二)喬木陰草帯
 八幡堂ヨリ一合ニ至ルマデノ区ニシテ八幡堂辺ニテハいぬたら、くましで、ちどりのき、やまもみぢ、おにもみぢ、ごまぎ、ぶな、つのはしばみ、かつら、やまでまり等ノ樹木アリ。 又つくばねさう、まひづるさう、ばいけいさう、くはがたさう、こふうろ、しろかねさう、はくさんおみなへし、みやまのきしのぶ、きつりふね等ノ草本アリ。 又しらくちづる等樹上ニ懸リ地衣亦頗多シ。 今其一二ヲ挙グレバ Stereocaulon uvuliferum ; Patellaria tnberlosa ; Lectnora palesens ; Pertusaria sub-vaginata 等ニシテ又蘚類少カラズ。 而メ八幡堂ノ社前、登山者ノ屡々休息スル所ニハ、にはほこり、にらみぐさ、いぬがらし、どじやうつなぎ、ぬかぼ、たびらこ等生育シ、又やぶえんごさく、みやまきけまん等アリ。 八幡堂ヨリ次第ニ上レバ、ふうりんうめもどき、さらさどうだん、はうちはかへで、こみねかへでアリ。 いらもみ始メテ自生シ、ひめとらのをごけ等ノ蘚、Cladonia ノ如キ地衣多ク、こいちゑふらん、いはせんとうさう、はんしやうづる等アリ。 又一千三四百米突ニ達スレバ大久保しだアリテ両側ノ樅樹ニ蘚類ト混生ス。コレヨリ以上、樅、いらもみ、たうひ、ばらもみ等アリ。 又なんたいしだ、しらねわらび等追々現ハレ、又ばんだいのきのり及ビ Lecanora caesiorubella 等ノ地衣アリ。 ソレヨリ一千五百米突ニ向ヒテ進メバやまうつぼアリ。 つりばな、まひづるさう、づたやくじゆ、さらさどうだん等アリ。 かうもりさう多ク、大久保しだ亦屡々現ハル。 而メ各種ノ蘚苔及ビ Cladonia gracilis ; Cladonia rangiferina. 等ノ地衣多ク地上岩石ニ附着ス。ソレヨリ千六七百米突ナル大樅 〔地名〕 ニ向ヒテ進メバあかしやうま多ク、こたぬきらん、くるまばつくばねさう、まるばいちやくさう、きそちどり、くるまゆり、かにかうもり等ノ諸品又現ハレ、樅、しらびそ等次第ニ多ク、からまつ、つが等を交ヘ、鬱々密林ヲ為シテ白昼尚暗ク、樹下又陰草多ク、Hypnum 及ビ Polytricum. 等ノ蘚多シ。 実ニ好採集地タリ。
 大樅ヨリ千八百米突ニ向ヒテ進メバしらびそ最多ク、からまつ、とうひ等ノ針葉樹林ヲナシ樹下、はんくわいあざみ、をしだ、きそちどり、からまつさう、ぐんないふうろ、こしもつけ、そばな、いぬたうき、はなづる等アリ。 ソレヨリ樹相漸ク疎トナリ、大ニ灌木及ビ草本ノ之ニ代ハラントスルモノアリ。 二千米突ニ近ケバ山勢頓ニ急峻ヲ加ヘ、岩しもつけ、こやうらくつゝじ、みやまはんのき等ノ灌木ニいたどり、やまぶきしやうま、ゑぞずゝらん等ヲ加ヘ、比較的植物ノ疎ナルハ想フニ雪崩レノ為メニ起因スル地相ノ然ラシムル所ナラムカ。
 ソレヨリ一合目 (2100m.) ニ至レバ山勢愈々急トナリ。 確ニ喬木帯ヲ経過シ終レルノ感アリ。
 之ヲ要スルニ八幡堂ヨリ二千米突ナル一合目ノ直下ニ逹スル間ハ富岳、大宮口ノ喬木陰草帯ニ属シ、其前半ハぶな、ときはかえで、くましで等ノ濶葉樹帯ヲ為シ、後半ハからまつ、しらびそ、もみ等ノ諸品、とうひ、つがノ類ナル針葉樹帯を示セリ。

(三)灌木帯 一合目辺ヨリ四合目辺ニ至ル
 一合目直下ヨリ已ニ其相ヲ呈シテやはずはんのき、こけもゝ、いはしもつけ、すのき、たかねいばら、みやまなゝかまと等ノ灌木アリ。 又みやまからまつ、ねばりのぎらん、いはわうぎ、むらさきもめんづる、みやまおとこよもぎ、ふじはたざお、しらねにんじん、はないかり等ノ草本アリ。 一合目ニハ木ヲ構ヘテ室ヲ造リ以テ登山者ヲ宿セシム。 四合、六合、八合等或ハ其他ノ処ニテモ宿ニ投ジ得ベシト雖、他ハ石室ニシテ内容モ狭ク且ツ暴風雨ニ逢フトキハ危嶮ナレバ成ルベク此室ニ宿シテ天気ヲ卜スルヲ可トス。 室ノ前面ニハからまつ、つが、しらびそ、とうひ等再ビ勢ヲ逞クシテ頗ル勇壯ニ且ツ暴風雨ノ襲来ヲ防グノ用アリ。 一合目ヨリ上レバ二千四百米突ナル三四合目ニ至ルノ間ハ悉クやはずはんのき、いはしもつけ、みやまはんのき、はなひりのき、みやまなゝかまど、こけもゝ、たけかんば、しらかんば、みやまやなぎ等ノ灌木ニきんれいくわ、まひづるさう、くるまばつくばねさう、あをやぎさう、ぐんないふうろ、くるまゆり、みやまはんしやうづる、おんたで、みやまをとこよもぎ、いはにんじん、こたぬきらん、ふじはたざほ、いはわうぎ等ヲ交ヘ、其間ばんだいのきのり、はなごけ、かぶとごけ等ノ地衣又頗多シ。 且ツからまつ、つが、たうひ、しらびそ等ノ針葉樹ヲ混ズルモ皆頗矮小ナリ。 之ヲ要スルニ富岳大宮口ニ於ケル灌木帯ハ正シク其跡ヲ相スルニ足ルナリ。

(四)草本帯
 四合目 (2400m.) 辺ヨリ六合目 (3000m.) ヲ出ルマデ此帯ニ属ス。 其間初メハ矮生ノからまつ、たうひ、みやまなゝかまど、みやまやなぎ、こけもゝ等ナリト雖、直ニ其跡ヲ絶チ、普通ニ生ズル植物ハ、きをん、いはわうぎ、みやまはんしやうづる、むらさきもめんづる、白花のひべいちご 〔シロバナノヘビイチゴ〕、いはつめくさ、こたぬきらん、みやまをとこよもぎ、おんたで等ニシテ、こいはかゞみ、ちどりさう、へびのした、いはひげ、おにく等亦多シ。 おにくハ通路ヨリハ少シク左ノ谷ニ入ルカ或ハ尚ホ遠ク西ニ回レバみやまはんのき、しらかんは (?) 等ノ樹根ニ寄生スルモノニ似タリ。
 七合目ニ近ケバいはつめぐさ、べにばないちやくさう、おんたで、みやまをとこよもぎ等アルノミニシテ、コレヨリ以上ハ普通ノ草本ハ最早尽キテ跡ナシト云フモ可ナリ。 而メはなごけ、しらがごけ等ノ地衣亦之ヲ見ル。
 之ヲ要スルニ富士山ノ草本帯ハ其發達ノ程度之ヲ彼ノ御岳、駒ケ岳等殊ニ白山。 日光山等ノ地上満目紫鮮緑相競ヒ紅白黄褐相争ヒ所謂御花畑ノ称アルモノニ比スレバ、頗讓ル所アリト雖、該帯ノ大略ハ已ニ之ヲ具備セルモノト謂ハザルベカラズ。

(五)地衣帯
 三千米突以上即七合目辺ヨリ以上ハ主トシテゑいらんたい、はなごけ、しらがごけ、ちづごけ等ノ地衣類ヨリ成リ、マヽ Frullania ノ如キ苔、しもふりごけノ如キ鮮アリ。 三千五百米突ニシテ尚且ツ Weissia viridula ノ生ズルヲ見ル。 然レドモ他ノ草本ヲ生ズルコト甚ダ稀ニシテ時ニいわつめくさ、おんたで等ノ点在スルヲ見ルモ八合目以上ニ至レバ絶エテ之ヲ見ルコトナシ。
(梅村甚太郎『富士山植物誌』附録、任他楼、1923)

■=木へんに解   楠 桶 櫛 ? 檄 ? 檎 蠏 蠏 蠏 蠏 蠏 蠏
●=木へんに令 檢 檢 檢 檢 檢 檢 檢 伶 伶 伶 伶 伶 伶 伶
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